法話12月

桑名市 六華苑 撮影: 超空正道


看々臘月盡みよみよろうげつつく

 そろそろ年の暮れということになりますが、この頃になりますと床の間に「看々臘月盡(よ看よ臘月ろうげつく)」と書かれた掛軸が掲げられることがあります。臘月は、十二月の別名です。看々(みよみよ)は、よく見なさいということです。解釈すれば「もう十二月も終わってしまいます。月日の流れの早いことをよく見ないといけませんよ」という意味になります。
 ただ、「臘月」は十二月を示すと同時に、私たちの一生を暗示しています。一年があっという間に終わるのと同じように、人生もあっという間に終わってしまうから、「ぼんやりと生きていてはいけませんよ。命の尽きる時をしっかり見極めて、やるべきことはきっちりと始末しておかないといけませんよ」と、さとしている言葉なのです。
 確かに、臘月(年の暮れ)になりますと、借りているものはきっちりと返済して、新しい年を迎える準備をしなくてはなりません。人生の臘月にあたっても同様に、これまで受けてきたさまざまな御恩に対して精算しておかなくてはなりますまい。しかし、人間、今自分が臘月を迎えているという実感はなかなか持てないものですから、結局のところ、多くの人は、野放図な人生を送ってしまうことになっているのではないでしょうか。
 清水寺の貫主であった大西良慶師が百五歳の時になさった法話に、こんなお話があります。
 昔、中国であるお坊さんが山中を歩いていると、樹の上に登って修行をしている仙人がいた。「そこで何をしているのか?」と問いかけると、「見てのとおり修行をしている」という。「修行して何になるのか?」と問い返したら、「二百年」と答えた。修行を完成すると、二百年の寿命が得られるというのである。相手を大いに驚かそうとしたに違いない。ところが、その坊さんは少しも驚かず、「じゃあ、二百一年目はどうなる?」と詰問した。これには当の仙人、ぐうの音も出ず、仙人の修行を諦め坊さんの弟子になったという……。
 実はこのお話、今から千五百年程前、中国浄土教の開祖といわれる曇鸞どんらんという方がおられて、そのエピソードを翻案されたものと思われるのです。話はこうです。
 曇鸞はとても勉強家で、難しい仏教学の研鑽に励むこと三十数年、ところが、五十歳頃、病を患い、やむなく勉学を中断せざるを得ませんでした。生命には限りがあることを実感した曇鸞は、長寿の法を研究していた陶弘景のもとを訪ね、修学を重ね、ついにその奥義である『仙経』を授かり、郷里への帰途、インドから来たという訳経僧の菩提流支ぼだいるしと出会った。そこで曇鸞は得意げに『仙経』を手に取り、「仏教に、この『仙経』に優る不老長寿の方法はあるか」と尋ねた。それに対して菩提流支は「比べるどころのものではない。たとえ長生きしたところで、結局は三界に輪廻りんねするだけである。仏教には無量寿むりょうじゅの教えがある」と言って、『観無量寿経』を授けた。それで曇鸞は『仙経』を焼き捨て、浄土教へと帰依したという……。
 無量寿について、大西良慶師は、次のようにおっしゃっています。
 この世とあの世は別の世界ではない。人間は、本当は死なないのである。確かに身体は変化し、終には無くなってしまうが、「私」というものは身体がすべてではない。いわば心の家にすぎないのである。「私」「あなた」というのは家を指しているのではなく、家の主を指しているのだから、家が無くなったからといって、主まで無くなるという道理にはならない。死んで極楽へ往いくのは「往相おうそう」、そこで修行して、再び衆生済度のために娑婆に還かえってくる、これを「還相かんそう」という。つまり、人間は死んでも死なないのである。この道理を胸の中にきちんとしまっておくと、くよくよすることも、死ぬことを恐れることもない……。
 ところで、数年前に図らずも私、脳梗塞を患らってしまいました。朝の八時過ぎ左手の違和感と呂律がおかしくなり、直ぐにでも病院に行きたかったのですが、十五分程で症状が無くなり、土曜日で法務も詰んでいましたので、結局病院に着いたときは、午後二時を少し回っていました。MRIの検査の結果、即入院となりました。
 これまで、癌による胃の切除、そして胆嚢摘出手術、脊柱管狭窄症と結構重い病気をしてきましたが、また厄介な病気を背負い込んでしまいました。多少の違和感以外、目立った後遺症は今のところ無くなりましたものの、張っていた空気が抜けてしまったような心持ちで、幾許いくばくか萎えておりました。
 そう、私を含め老齢の方はもちろん、若齢の方におきましても、「月々是臘月」の意識をもって、阿弥陀仏のもと、無量寿への旅立ちの準備、身支度をきちんと調えておいた方がよいようです。

       (潮音寺 鬼頭研祥)

 


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