
夕顔
秋の彼岸会
“彼岸会”とは日本独特の仏教行事です。春と秋のお彼岸の期間はそれぞれ7日間で、中日(春分の日、秋分の日)にご先祖に感謝し、残る6日は悟りの境地に達するのに必要な6つの徳目「六波羅蜜」(悟りの彼岸に至るための6つの修行徳目)を1日に1つずつ修めるとされています。また、お供え物は、春はこしあんで牡丹餅(ぼたもち)、秋はつぶあんのおはぎというのが一般的です。さて、迷いの世界であるこの世(此岸)を離れて悟りの世界(彼岸)に到達するための実践目標、六波羅蜜は以下の六つです。
1.布施(ふせ)
2.持戒(じかい)
3.忍辱(にんにく)
4.精進(しょうじん)
5.禅定(ぜんじょう)
6.智慧(ちえ)
六波羅蜜はもとは仏道修行者(菩薩)の修行徳目ですが、在家信者が日々の暮らしの中で心がけるべき徳目でもあります。
今回は最初に戻って布施です。「布施」という言葉は、お寺への金銭的寄進と思われているのが現代ですが、本来は出家・在家を問わず、仏に帰依する者が実践しなけれはならない行です。布とはあまねく・広く、施は施(ほどこ)し与える。原語は、梵語のダーナで、漢字では檀那(だんな)と書きます。檀那寺、檀家の語源です。
布施とは、他から受ける恩恵に感謝し、他に恩を返すための心と身体の修行です。しかも、この布施は、施せばそれでよいということではありません。見返りを期待したり、悪行に加担したり、また与えるものが不正・不当なものであってはなりません。ですから、布施する人、布施される人、布施する物のいずれもが、清らかなものでなくてはならないという「三輪清浄の布施」が基本とされています。仏教でいう布施には、
・財施-金品などの財を施すこと、
・法施-仏の教えを施すこと、
・無畏施-人々の不安や恐怖心を除き平安な心を持てるよう、心身をもって施す
があります。
財がなくてもまた仏教者でなくても、心の清浄な人なら実践できるのが無畏施です。経典には「無財の七施」が説かれています。
・身施(捨身施)-骨身を惜しまず奉仕する。
・心施(心慮施 )-他者の悲・喜を自分のこころとする。
・和顔施- やさしい顔、ほほえみで接する。
・眼施(慈眼施) -いつくしみの眼でみつめる。
・言辞施(愛語施 )-優しく温かい言葉で接する。
・房舎施- 住む場・心にゆとりを与える。
・床座施- 座席や場所を譲る。
仏典『無量寿経』には「和顔愛語 先意承問」(いつも優しい笑顔で優しい言葉をかけ、人の気持ちを前もってくみ取り、それに応える)とあります。私たちは、自分の力で生きるのではなく、他とのつながりの中で生かされています。「無財の七施」を心がけたいものです。